『千段』

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みじかいおはなし
嗜好[完結]


『嗜好』 (みじかいおはなし)

2008.10.13  *Edit 

9/1,000


 深夜。
 酔っ払って帰ってきた旦那さんに、突然
「はい、おみやげ」
 と、メイド服を渡されたって、困る。
 メイド服。こう、バラエティショップとかで売ってそうな、いかにもな袋に入ったテカテカの奴。

 川上穂乃香28歳。コスプレの趣味はない。
 別にやってる人を馬鹿にするつもりはないし、似合ってる人は普通に格好いいな、とは思うけど、特に自分でやりたいと思ったことはない。大体、コスプレに限らず、礼服でもドレスでも晴れ着でも、非日常的な服装というものについぞ興味が湧かない。普通に、毎日着られる範囲でのお洒落ってのが私のアタマが「楽しい」と感じるエリアなのだ。お買い物やデートに着ていくのが憚られるような服を着てもしかたないじゃん、と思ってしまうのだ。

「……雄太はこういうのが好きなの?」
 若干引きつつ旦那さんに尋ねると、酔っ払いは上機嫌で
「いやあ、まあ、うん、やぶさかではないっていうか何ていうか」
 などとごにょごにょ言いながら、いったん私に手渡したパッケージをもう一度取り上げて、おもむろに開封しだした。まさか今着ろなんて言うんじゃないでしょうね、と私は慌てた。
「え、待って、何? 意味がわからない」
 袋から衣装を取り出そうとする旦那さんの手を押しとどめながら、なるべく威圧的にゆっくりはっきり発声すると、酔っ払いも若干は自分の言動の突飛さに思い至ったのか
「いや、ごめん、会社のね、ビンゴ大会で、井沢が当たったんだけど、要らないって言うから貰って来たんだよね」
 などと照れた口調で言い訳を始めた。
 いまさら照れても無駄だ。
 というか、むしろ、照れるところではない。

「や。そりゃ井沢さんは要らないでしょうけど、うちだって要らないじゃない。私は着ないよ」
 呆れて冷淡にぴしゃりとやると、酔っ払いは目に見えてしょぼくれた。
「……ほーはこういうの似合うと思って」
 旦那さんは私を「ほー」とか「ほっちゃん」と呼ぶのだ。
「似合わないし、私こういうの興味ないって知ってるでしょ? 返して来なよ」
「そう仰らずに! 一回でいいから着て見せて下さいよ。俺、もうみんなに言っちゃったんだよ」
「――何を!?」
 聞き捨てならない一言に、私の言葉が自然荒立つ。
 なんだ、「もうみんなに言っちゃった」って!
「だから……ほーに着てみてもらうって」
「着てみてもらったよ、って言えばいいじゃない」
「……でも」
「何よ」
「証拠がないと駄目だからって」
「は?」
「写真を……一枚だけでいいんだけど……」
「冗っ談!」

 あまりにも頭にきたので、私は思わず、パッケージを開けかけて半分袋から出ているメイド服を旦那さんの手から奪い取って、床に叩きつけてしまった。
「酔った勢いで妻を酒の肴にしない! あたしはこんなもの着ませんからね? そんな羞恥プレイする意味が分からない!」
「……怒らないでよ」
「怒るよ! 人を馬鹿にしてるよ!」
「ごめん……」
 酔っ払いは酔っ払いながらもしゅんとして、あらぬところまで飛んで行ったメイド服を拾い上げながら
「返して来るよ…… そんなに怒ると思わなかったんだよ」
 などとぶつぶつ言っている。
 こいつ、私が何を怒ってるのかちゃんとわかってないな、と思うと余計むかむかして、
「そんなに好きならメイド喫茶でもなんでも行けばいいじゃない」
 とつい、厭味を言ってしまった。

 すると、予想外の返事が来た。
「行った」
 そう来るとは思わなかった私は気の利いた厭味が出て来ずに
「ああそう。良かったわね」
 と、物凄く普通の返事をすると、さらに
「良くないよ!」
 とまた予想外の返答が来た。
「なんでよ? そんなにコスプレが好きなら毎日行きゃいいじゃん」
 私はなんかもう旦那さんの拘りとかそういう世界についていけないとか思って、もうどうでも良くなって投げ遣りに言う。こんな人だと思わなかったなーとかそんなことまで考える。

 そんな私の内心を知ってか知らずか、旦那さんはなんだか悔しそうに語り始めた。
「二次会で、相沢本部長が、メイド喫茶に行こうとか行って、四課みんなで行ったんだ。そしたらまあ、いろんなメイドさんがいたんだけど、井沢がえらいはしゃいじゃって、一人のメイドさんに『うちの奥さんよりよっぽど可愛い』とか言って。まあ可愛くなくはなかったけど。そしたらそのメイドさんも凄い調子乗り始めるし、井沢も井沢で『川上だって奥さんよりメイドさんの方がいいだろう』とか言い始めるから、俺、腹立って来ちゃって。だってそのメイドさんよりほっちゃんの方が可愛いし、メイド服だって似合うと思うんだ」


 なんだなんだなんだ。
 途中から風向きがおかしくなってきたぞ。

 怒っていたはずの頭が、別の意味でかっかして来て、私は思わず
「は、はずかし」
 と口に出して言ってしまった。
「恥ずかしくないよ、だってほーは俺の奥さんだもん」
 酔っ払いは普段なら死んでも口にしないであろう気障な台詞を堂々と言い放ち、
「だからさ、俺、井沢が持って帰って奥さんに着せるとか言ってるの、無理矢理取り上げて、ほっちゃんに着せて写真持って来るって言っちゃったんだ。あの調子こいてるメイドにも見せてやるんだ」
「いやいやいやいや」
 鼻息も荒く拳を握り締める旦那さんに私は思わず裏拳でつっこんでしまった。
「お気持ちは嬉しいけども、晒しものは恥ずかしいからやめて。私の意思は無視じゃんそれ」

 厭なものは厭だし、酔っ払いの口約束のために旦那さんの顔を立ててあげる気は微塵もないのだけれど、もう怒りは消えていた。素面で面と向かって可愛いなんて言われたことないのに。酔っ払った勢いとはいえ、そんなこと思ってくれてるなんて。思ってもみなかったので、素直に嬉しかった。

「そうかぁ。駄目かぁ」
 旦那さんはしおーっとなって、袋からはみ出したメイド服を元通り畳み始めた。そのしょげぐあいがなんだか尋常ではないので、私はもしかしたら、と思って
「……ねえ、雄太、もしかして、本当にコスプレとか好きでしょ?」
 と訊いてみる。
「いやまあ……うん、実は、ちょっと」
 やっぱりか。
 私は、腕組みをしながらしばらく旦那さんを見ていたが、なんだかどうにも可哀相になってしまって
「写真無しなら」
 と、思わずあらぬことを口走ってしまった。
「え?」
 よく分かっていない表情で、旦那さんがこちらを見る。
 まだ今なら「なんでもない」と言えばなかったことになるぞ、と理性が言ったけど。
「いいよ、写真はいやだけど、着るだけでいいなら」
 右手を差し出す。
 そこへ、半信半疑といった態で、旦那さんがメイド服を乗せる。
「サーヴィスだよ。今日だけだからね」

 こういうのは勢いが肝腎だ、
 と、私はなかばやけくそで、パジャマのボタンを外し始めた。

 付き合い始めてからは5年、結婚してからでも3年経つ旦那さんの、初めて知る、意外な嗜好。
 私はまったく興味がないけど、別に、厭な訳じゃないんだから。
 知らない人に写真晒されるなんて冗談じゃないけど。
 旦那さんが、可愛いなんて言ってくれるんなら、
 そのお礼にサーヴィスしたっていい。

 そんなことを考える自分自身もなんだか新鮮で。
 コスプレって、実は、悪くないのかもしれない、などと、まだ目をまん丸にしている旦那さんを横目に見ながら考えた。







了。





*

*

*

詩も飽きたし連載小説はまとまらないしで単発行ってみました。
や。ヤマなしオチなしイミなしですが。本当の意味で。
こんな酔っ払いのオミヤって、という、ただそれだけのおはなしです(笑)



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~ Comment ~

No title 

面白かった~♪
旦那さまがアホで(褒めてる)可愛いわ。
奥さんもなんだかんだ優しいしね。
幸せな家庭だわ。

No title 

旦那さんかわいすぎるww
かなりこの日は深酒してますねw

No title 

*せいちゃん
ありがとうございます!
旦那さんは阿呆だと思います(笑)
多分時々酔って訳のわからないものを
おうちに持ち込んだりするんだと思います(笑)
かなりラヴ度高いご家庭ですね。
もうなんか全然ストーリーとかないけど。書いてみた。

No title 

*chamiさん
ありがとうございます!
旦那さんはもうべろんべろんだと思います(笑)
メイド喫茶できっと飲みすぎたんだろう(笑)
故に、折角コスプレしてもらっても、翌朝覚えてない可能性は高いと(笑)
勿体無いねえ(笑)
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