『千段』

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みじかいおはなし
ぼくたちの地図(旧作)[完結]


『ぼくたちの地図・6』 (みじかいおはなし・旧作)

2008.11.29  *Edit 

 


 たんぽぽが、あんまり簡単に言うので、宇吉は思わず
「どうしてだ!?」
 と食ってかかってしまっていた。
「どうして、そうやってみんな、簡単に気持ちを変えられるんだ!? 俺の弟もみんな、そうやって、離れて行っちまった。俺だけ、変われない。俺だけ、ひとりっぽっちだ」
 宇吉の耳が夜風にふるふると震える。独りなのが淋しいのではない。取り残されるのが辛いのだ。
「変わらなくたっていいじゃないか」
 たんぽぽは、なぐさめるように揺れながら言った。
「ご覧。あたしらたんぽぽの生きる道は大きく分けて二つある。ひとつは、綿毛を飛ばして子孫を増やす道だ。この黄色な花びらがみんなふわふわの綿毛になって、風にのって空高く舞い上がるのは、何よりも最高の気分だって、隣の株のばあさまも言ってたもんだよ。上手い具合に突風が吹けば、お山の杉の木よりももっと高く飛ぶことだってあるんだってさ。誰よりも遠くまで種を飛ばして、沢山子孫を増やすのが、あたしたちの誇りなんだ」

「それなら……!」
 宇吉は堪らずたんぽぽの言葉を遮るようにして叫ぶ。
「それなら、どうして、俺に食べられようなんて気になれる!?」
「それも、あたしたちの生き方のひとつだからさ」
 たんぽぽはあっけらかんと言った。
「そりゃあ、確かに、あんたがあたしを食べれば、花としての寿命はそこでおしまいさ。でもね、それで終わりかって言ったらそうじゃない。あたしはあんたの胃の腑に落ちていって、そこから五臓六腑を旅して、あんたの血となり肉となるんだ。あんたは知らないかも知れないが、あんたの食べたものはそうやって、あんたの身体を巡って、一緒に生きてるんだよ。あたしもあんたに食べられて、そのふさふさのしっぽの毛にでもなるか、そのちっちゃい爪の一本にでもなるか分からないけどさ、そうやって、あんたの身体の一部になるんだ。あんたの見たこと、聞いたこと、思ったこと、みんな、あたしも一緒に感じることが出来るんだよ。これは、たんぽぽのまんまで一生を終わったら絶対に出来ない経験なんだ。それにね」

 そこで不意に言葉を切って、たんぽぽは揺れるのをぴたりと止めた。きっと、たんぽぽに目があったなら、宇吉のことを真っ直ぐじっとみつめているに違いないような、そんな止まり方だったから、宇吉も真っ直ぐにたんぽぽのことを見つめ返した。
「あんたを見たときから、あたしはあんたにきっと惚れたのさ。これもあたしの運命なんだろうね。あたしをお食べ。そうすりゃあんたはいつもあたしと一緒なんだよ。あたしがあんたの胃の腑に落ちていく時、きっと胃の腑が少し温かくなるだろう。そうしたら、ちょっとだけ、淋しくなくなるだろう」

 宇吉は黙って、ただ、たんぽぽを見つめた。今まで、数え切れない数のたんぽぽを食べてきたけれど、こんな気持ちになったのは初めてのことだ。
 第一、たんぽぽに、恋を打ち明けられるなんて!! 
 戸惑いは、勿論ある。けれどそれ以上に、なぜか宇吉の方まで切なくて、このたんぽぽの恋心を受け止めるには、たんぽぽを食べるしかないのだと、そんな気がして、とうとう宇吉は覚悟を決めた。

 宇吉はそっとたんぽぽの花茎を持って、根元に近い所から折り取った。夜露に濡れた花びらの一片一片は、とても綺麗だった。
「変わったって、変わらなくたって、どっちだっていいじゃないか」
 宇吉の手の中で、たんぽぽがそう囁いた。
「あたしみたいに、食べられるものがいるから、あんたのような動物たちは飢え死にしないで済むんだ。そして、食べられないで、綿毛を飛ばして、子孫を残すものがいるから、あたしたちの仲間は絶えることなく続いてきたんだ。変わるのも、変わらないのも、どっちもいないと世の中成り立たないのさ。どっちだっていいんだよ」
 宇吉は黙って頷いた。そして、目を閉じて、一気に花を頬張った。青臭い香りが立って、ほろ苦いたんぽぽの味が口いっぱいに広がる。

 ああ、俺は生きている、と、宇吉は思った。
 この、たんぽぽと一緒に、生きていくのだ、と。
 飲み込んだたんぽぽが胃の腑へと落ちていく時、それは確かに、ほんのりと温かいようだった。





了。






*

*

*

着想の勢いだけで書き始めたおはなし(笑)
というか、私の書くみじかめのお話はすべてそんな感じです…(汗)
なので、途中でダレるんですよねー。
こういう、阿呆っぽい設定を思いついた瞬間が一番楽しいです(笑)



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