『千段』

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みじかいおはなし
いつかのメリーゴーラウンド(旧作)[完結]


『いつかのメリーゴーラウンド・4』 (みじかいおはなし・旧作)

2008.12.04  *Edit 



 敏子は社訓から視線を移動させて、もう一度岡本父子を見た。彩乃が、
「彩乃、お馬さん乗れる?」
と訊いた。
「乗れるよ」
 岡本が断定する。
 その根拠の無い自信が、訳もなく敏子の気に障って、敏子はもうきっぱりと断ってやろうかと思う。ロマンティックな学生の我が儘に付き合っていられるほど世の中甘くないんだってことを知らしめてやらなくては、と。

 と、そこまで考えて敏子はふと自分で自分に突っ込みたくなった。
 世の中ってなんだ。
 会社か? 会社の社則を守ること? 法律? それとも一般常識という奴だろうか? 自分が論拠としていた「世の中」という言葉が酷く曖昧で正体不明なものであることに、突然敏子は気付いてしまった。それでは、敏子の嫌いな「夢」という言葉と同じではないか!
 閉園後のメリーゴーラウンドを動かすことが法律に触れる訳ではないし、この郊外の遊園地は人里離れていて、騒音が近隣住民の迷惑になるとかいうことはありそうにない。社則――は、覚えてはいないが、恐らくみだりな私的利用を禁じるくらいの項目はありそうだ。
「岡本くん」
「はい」
 岡本が敏子を真っすぐに見る。その、ひたむきに期待を寄せる眼差し。それが無性に癪に触るのは、もしかしたら彼の無邪気さへの嫉妬なのかもしれない、と敏子は思う。
「チケットはちゃんと買って頂戴。大人一人子供一人」
 岡本の目がゆっくりと見開かれる。
 喜びに溢れた人の顔というのは、本当に文字通り輝くものなのだと、そんなことに敏子は感心する。
「ありがとうございます!」
 若者は、感激の勢いのままに、彩乃を抱いた反対の手を敏子の背中へ回して一瞬強く抱擁した。
「本当、ありがとうございます」
 敏子は、うろたえるのを隠すのに精一杯でろくな返事も出来なかったが、決して、悪い気分ではなかった。


 いつか、彩乃は今日の日のことを思い出すだろうか? 操作盤の鍵を鍵受けから外しながら敏子は想像してみる。二歳では、きっと、無理だろう。
 けれど、記憶というものは、消えることはないのだと聞いた事がある。
 夜の中に、明るく輝くメリーゴーラウンド。彼女のためだけに回る回転木馬。そして、そんなにも彼女のことを大切に思っている若い父親の愛情。たとえ、思い出すことはないのだとしても、そんな記憶を体の奥に棲まわせている人生というのは、とても、贅沢なものかもしれない、と、敏子は思う。そんな贅沢の「共犯」になるのは、決して決して、悪い気分ではなかった。



了。




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