『千段』

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みじかいおはなし
熱[完結]


『熱・1』(みじかいおはなし)

2009.12.11  *Edit 


3/1,000


 伊藤ユタカは、おなじ陸上クラブの秋元カオルのことが好きであったので、彼女がインフルエンザで学校を休んだのを知ると、クラブをさぼって見舞いに行った。無論、学校も親達もこの流行性の感染症には神経質になっていたから、ユタカも固く見舞いを戒められていたのだが、小学六年生のユタカには、大人達の切実さはまったく伝わっていなかった。彼にとっては、好きな女子が高熱を出しているということの方が切実であり、また、彼女が休んだままで冬休みを迎えることにでもなれば、もうしばらくは会えないということの方が切実であった。さいわい、ユタカもカオルも中学入試を終えていた。

「秋元、いる?」
「はい」
 カオルはひとりで寝ていた。
 両親の仕事に差し支えるというので、日中は祖母が来てくれていたが帰ったのだという。子供らしい迂闊さでもって、カオルはユタカを室内に招き入れた。
「熱が9度もでちゃった。ひまだからゲームやってたんだけど、すぐ目が痛くなっちゃう」
 はあはあと速い呼吸をして、目を潤ませながらも、カオルはそれほど具合が悪そうにはしていなかった。おざなりに冷蔵庫の炭酸飲料をユタカに出してやると、ソファに斜めに寝転んでゲームのコントローラーを持つ。ユタカの持っていないRPGであった。
「病人はゲームとかしないでちゃんと寝てろよ」
 ユタカは、赤い頬でテレビ画面を見つめるカオルを見て胸を痛めた。何でも劇的にしたがる子供心は、熱のある少女と死をいともたやすく結びつける。ゲームなどやっていたらもっと熱があがって死んでしまう、と思う。
「だって、ひまなんだもん。伊藤くん、やる?」
「俺これしらねえもん」
「いいよ。セーブしたから、適当にやっても」
 げほげほと咳き込みながらカオルが寄越したコントローラーは熱くて、ユタカは自分も熱があがるような心地がした。それは、単に頬が火照っただけのことであったが、ユタカの幼い脳みそは、自らにも、カオルの病気が感染したのだという結論を導く。それは、恋をする少年にとって、いかにも甘美に思える帰結であった。おなじウイルスを、おなじ症状を共有する。のみならず、俗に「風邪はうつせば治る」ものであるからして、カオルの病気を己が代わりに引き受けて彼女を楽にすることができる。

 ユタカは、意を決して、カオルを見た。
 受け取ったコントローラーが手から落ちた。
「あ、ちょっと。落とさないでくれる?」
 咳き込みながらのカオルの抗議には答えずに、ユタカは
「秋元、風邪って、うつせば治るぜ?」
 と言うや、カオルの肩を掴んで、その唇にキスをした。
 キスというものをしたことがなかったので、それは、ただ、闇雲に唇に唇をくっつけるというだけの非常に雑駁な行動であった。己の唇に、カオルの熱く柔らかい唇の触れるのを確かめてからユタカは目をぎゅうっと閉じた。それが彼の知る限りのキスというもののセオリーだった。




2に続く。



*

*

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ああいや…
2回に分けるようなおはなしでもないんですが、
眠さに負けてひよりました…
次で終わります…



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