『千段』

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みじかいおはなし
熱[完結]


『熱・2』(みじかいおはなし)

2009.12.20  *Edit 


 だがしかし、ユタカの生まれてはじめてのキスは2秒と持続しなかった。
 物凄い力でカオルの熱い手がユタカの肩を押し返し、次いで、容赦のない蹴りがユタカの鳩尾に入った。本当に容赦がなかったので、ユタカはもう少しで嘔吐するところだった。
「変態――!」
 叫びながら、怒り狂った形相のカオルが、手近にあったものを投げつけてきた。それは炭酸飲料の入ったグラスであったので、ソファ一帯とユタカの太もものあたりは冷たいそれに濡れてオレンジ色に染まった。
「何でそういうことするわけ……!? 信じられない! 変態! しね!」
 カオルは両手で顔を覆ってわっと泣き出した。
 ユタカは、泣きたいのはこっちだ、と思いながらぼんやりと立ってそれを見ていた。本当に今すぐにしねたらまだましだ、と思った。ゲームみたいに、セーブしたところに戻ってやり直したい。でも出来ない。

「俺、県外の中学に行くんだ」
 何故だか、嘘が勝手にユタカの口から出て来た。
「うちの父さんが転勤するから、家族みんなで引っ越すんだ。遠くに行くんだ。だから、秋元に、もう会えないかもって思ったから」
 兎に角ユタカは、何か言い訳をせずにいられなかったので、非常に必死に、誠実に言った。カオルは、顔を覆ったままでそれを聞いていた。双方が無言になって暫くしてから、カオルは、顔を覆っていた両手を少しずらして両目を覗かせ、
「馬鹿じゃないの」
 と、弱弱しく言った。
「ごめん」
 とユタカが答えると、ぽろぽろと涙を零しながら、
「なんで先にちゃんとそうやって言ってくれないの? なんで男子ってエロいことばっかり考えてんの? もう駄目だよ。もう、なんであんなことするのよ!?」
 と、一気に畳み掛けて、そして、盛大に咳き込んだ。ユタカはその背中をさすってやりたいと思ったが、いくらユタカが馬鹿であっても、今はそうすべきでないことはわかった。
「帰って。もう絶対来るな」
 咳き込みながら切れ切れにカオルの言うのに、頷いてユタカはカオルの家を辞した。

 別に、キスをした瞬間に、ユタカに、カオルの言うところの「エロい」考えがあった訳ではない。ユタカはもっと、ロマンティストであった。だが、彼のロマンティシズムは、小学校六年の女子に取ってはロマンティックとは程遠い別のものであったのだ。そして、帰る道々にユタカが考えてみるのに、キスをするというのは確かに、エロいように思われた。それも、小学校六年の男子にとっては、殆ど、もっともエロい行為であるとすら言えるような気がした。何故そんな愚かなことをしてしまったのか、いくら考えてもわからなかった。しかも、ジャージの太もものところはオレンジ色に濡れているので、ユタカはあたかもおもらしをした人のような具合になっていて、彼の惨めさを助長した。

 翌日、ユタカは熱を出して学校を休んだ。
 それはインフルエンザではなかったが、彼が病欠したことにより、六年全体が、冬休みまでの数日間、学年閉鎖となってしまった。病床で、ユタカは、何故自分がカオルを好きなのかを一生懸命考えたが、理由はよくわからなかった。そして、キスをしてもインフルエンザがうつらなかったのだから、あれはきっと本当のキスではなかったのだろう、と考えた。本当に正しいキスはきっとカオルを怒らせることもなく、彼女のインフルエンザを癒し、そして何か魔法のようにユタカの好意をカオルに伝える筈なのであった。ただ、陸上のフォームと違ってキスの遣り方は、誰にも聞けず教えてもらえず、しかも自主練習すらもどうやったらいいのかわからないのであった。



了。




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